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ナトリウム

Sodium

By Pasquale Strazzullo and Catherine Leclercq

Advances in Nutrition 5:188-190, 2014

 

 ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンである(1 mmol23 mgのナトリウム、58 mgの塩に相当)。成人男性の平均体内ナトリウム含有量は92 g(訳者注:塩としては234 g)で、その半分(46 g)135 – 145 mmol/Lの濃度で細胞外液中にあり、~11 gは~10 mmol/Lの濃度で細胞内液中にあり、~35 gは骨の中にある。細胞外液と細胞内液との間の濃度勾配はナトリウム-カリウム・ポンプ活動によって維持される。そのポンプはATPで供給されるエネルギーを使って濃度勾配に逆行して、細胞の中から外へ、またその逆でナトリウムとカリウムをそれぞれ輸送させる。腎細管上皮または腸壁の分極した細胞で、特別なチャンネルまたは他の輸送機構を通して細管内腔から、または腸からナトリウムは細胞に入り、その後、ポンプの作用によって細胞から隣の細管に押し出される。ポンプは細胞の側底側に主として分布している。これらの細胞で、ナトリウム輸送は他の基質、例えば、リン酸塩、アミノ酸、グルコース、ガラクトースの輸送とほとんど関係している。

 ナトリウム吸収は遠位小腸と結腸でほとんど量的に起こる。体内のナトリウム収支は水収支と密接に関係しており、腎臓によって最終的に維持される。ここで糸球体でろ過されたナトリウムは細管レベルの必要性に従って0.5%から10%まで範囲の割合で再吸収される。そこではアンジオテンシンⅡ、ノルエピネフリン、アルドステロン、インシュリンは再吸収を刺激し、一方、ドーパミン、cAMP、心性ナトリウム利尿ペプチド、プロスタグランジンはナトリウム利尿効果を発揮する。一般的に少量のナトリウム損失は便や汗を通して起こる;これらの損失はナトリウム摂取量の増加と共に増加するが、それらの一部は義務的である。

 ナトリウムは正常な細胞ホメオスタシスの維持、体液、電解質バランス、血圧の制御に関連した必須栄養素である。その役割は重要な浸透圧作用のために細胞外液量を維持するために重大で、筋肉細胞と神経細胞の興奮性と血漿膜を通して栄養素や基質の輸送のために同様に重要である。

 

欠乏

 一般的に食品製品で使われている幅広い範囲で加えられる塩を考えると、臨床的に関連した食品のナトリウム欠乏は健康な人々にとって極端にあり得ない。事実、ナトリウム欠乏は非常に低いナトリウム含有量の食事でも通常の条件下では起こらない。対照的に、食品中の過剰のナトリウムは世界中のほとんどの国民で普通のことである。食品加工中の製品に加えられる塩と台所で調理される料理や食卓でさらに塩を加える幅広い習慣のためである。この過剰な塩は高血圧と心血管疾患の原因となる要因であると認識されており、慢性腎臓疾患、胃がん、カルシウム腎結石、骨粗鬆症の発症にも寄与している。

 本当のナトリウム(と水)欠乏の状態は重症のアジソン病、ナトリウムを失う腎疾患、広範囲な火傷、慢性的な下痢、手に負えない嘔吐、極端で長期間の発汗、糖尿病性ケトアシドーシス、過剰な利尿剤の服用、連続的な胃の吸引のような病状でのみ起こる。

 

毒性

 致命的な結果となる可能性を持った過剰のナトリウム摂取量(塩摂取量)による急性毒性は0.5 – 1 g塩/体重kgといった多量のナトリウム摂取に関係して報告されてきた。いくつかの病状(例えば、心不全、回復不能の肝硬変、腎不全)では、通常の我々の食事によるナトリウム摂取量(10/d以上)は細胞外液量に危険な増加をもたらすかもしれない。

 しかし、通常の条件下でも、多量のナトリウム摂取量は、特に病気になり易い人々で細胞外液増加と血圧の増加を来し易い。集団で習慣的な塩摂取量が高いほど加齢に伴う血圧上昇と高血圧発症率が大きくなることをインターソルト・スタディは示した。

 

食品からの給源

 食事からのナトリウム摂取量は、自然の食品中にある一般的に少量のナトリウムと台所で調理中に、そして食卓で加えられる多くのナトリウム、工業生産中の多くの食品に加えられるさらに多くのナトリウムとの合計である。無視できないほどの加えられるナトリウム量は経口または非経口の投薬を通して摂取されるかもしれない。ナトリウム摂取の給源は他にも“任意”(台所や食卓で食品に加えられる塩)と“非任意”(食品中に自然に含まれているナトリウムと工業的に食品を変質させる時に加えられる塩)に分けられる。後者は主として塩化ナトリウムの形態で、グルタミン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの形態でも~0.10 gある。

 食品のナトリウム含有量はかなり変動し、食品給源(例えば、動物性食品は自然により多くのナトリウムを含んでいる)と食品自身によって被る変質の程度の両方に依存している。自然にナトリウムの少ない食品は果物、野菜、油、セリアルで、それらの含有量は少し例外はあるが、痕跡量から~20 mg/100 gの範囲である。肉製品と魚製品は40 – 120 mg/100 gを自然に含んでいるが、イガイやカキのようないくつかの貝は500 mg/100 gまでも含んでいる。全牛乳は~50mg100gを含んでいる。加工食品は製造中に加えられる塩量に依存して明らかに変わる。例えば、パンはわずかに痕跡量から数百mgのナトリウム/100 gを含んでいる。いくつかの伝統的な肉製品とチーズのナトリウム含有量は極端に高く(2500 mg/100 g以上)、多くの冷凍食品のナトリウム含有量もそうである(700 mg/100 g以上)

 ほとんどの国々で、セリアルとパンを含めてセリアル製品は、肉/卵/魚製品や牛乳と乳製品に続いて非任意の主要なナトリウム源である。果物やと野菜による総ナトリウム摂取量の寄与度はほとんど無視できる。

 

食事勧告

 権威ある国際的な出所に由来するナトリウム摂取量についての推奨値は比較的均質である。投与量応答試験データがないため、ほとんどの国と国際的な当局は人口についてのナトリウム平均要求量または推奨摂取量を定義することは不可能であることを知った。欠乏サインまたは兆候を予防するナトリウムの最少摂取量は非常に低く、他の必須栄養素の必要量を満たすためのバランスのとれた多様な食事はこれらの数値よりも著しく高いナトリウム量を含んでいることは疑いがないことを利用できるデータは示唆している。結果として、最低生理学的必要量を満たすための参考摂取量を設定するよりもむしろほとんどの当局は、多様な食事と健康な生活様式と両立できる中程度のナトリウム摂取量に相当する十分な摂取量を設定する方が便利であることを知った。十分な摂取量以上の摂取量は不足の確率が低い。年齢特性の許容上限摂取量または標準的な食事目標も、心血管疾患や他の慢性的変形性疾患を予防するためにナトリウム摂取量を減らす必要性を示すために、同じ当局によって設定された。人口のための目標値は、ナトリウム摂取量が少なくとも上限値または標準食事目標値よりも低くすべきであるが、もっと低い摂取量でも望ましいかもしれない。

 2010年に、医学研究所の解析に基づくアメリカ人の栄養ガイドラインは 9 – 50歳の全ての人々に塩3.75 gと言う十分な摂取量を、相応じて子供や老人についてはカロリー摂取量が少ない関係でより低い量を設定した。この量は両性についても適当と考えられた。未青年と全ての年齢の成人(14歳以上)については、医学研究所は上限を2300 mg/d(塩として5.8 g/d)を設定した。上限値は全集団の全てのほとんど人々に対して悪い健康効果の危険を示さないと思われる1日当たりの最高栄養摂取量であるからだ。アメリカ心臓協会は医学研究所の2006年報告書と一致した勧告値を出した。しかし、最近、集団の減塩の結果に関する医学研究所の新しい委員会は、糖尿病、慢性腎臓疾患、または既に心血管疾患になっている人々については1500 mg/d(塩として3.8 g/d)までナトリウム摂取量を減らした時の直接的な健康結果に関する効果に関する利用できるエビデンスは全アメリカ人口とは違って彼等を治療するための勧告値を支持しないことを観察した。その結果、この委員会は全ての成人について1日当たり2300 mgと言う十分な摂取量を定義した。イギリスの食品標準局とカナダの厚生大臣のナトリウム作業グループによる勧告値は医学研究所による勧告値の線上にある。

 最近のWHOガイドラインは集団についての目標値として1日当たり2000 mg以下のナトリウム(塩として5 g)を設定した。この摂取量はヨード欠乏によって引き起こされる甲状腺疾患の予防と十分に両立できると述べている。ヨード欠乏はヨード添加塩をより多く摂取することにより予防できる。

 

最近の研究

 最近の実験研究と臨床研究は内皮機能とナトリウム摂取量と免疫システムとの間の潜在的に非常に重要な相互作用に及ぼすナトリウム摂取量の大きな効果を強調してきた。過剰なナトリウム摂取量はまた後に胃がんの危険率増加、腎石病、尿中カルシウム損失増加は負のカルシウム収支になるために骨粗鬆症とも関係している。

 中程度のナトリウム摂取量低下の効果に関するランダム化比較試験の最近のメタアナリシスは子供や未成年者と同じ様に成人高血圧者と正常血圧者で有意な血圧低下を記録した。

 習慣的な塩摂取量と心血管罹患率および死亡率との関係の展望的研究の2件のメタアナリシスは、高い塩摂取量は脳卒中や他の心血管疾患の危険率増加と大きく関係していることを示した。しかし、2013年の医学研究所特別委員会で述べられたように、これらの厳しい結果に及ぼす過剰な塩摂取量の影響についてのエビデンスは集団としてまだ観察研究に基づいており、研究のほとんどは重要な方法的制限によって影響される。これらの制限を外すためにさらなる研究を試みるべきであり、理想的には厳しい健康結果に及ぼす長期間減塩で程度の異なった影響を述べるために設計されたランダム化比較試験を実行すべきである。