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塩摂取量に関連した健康結果の総合レビューはガイドラインと

エビデンスとの間の境界を広げることを強調している

Systematic Review of Health Outcomes in Relation to Salt Intake Highlights the Widening Divide between Guidelines and the Evidence

By Kei Asayama, Kattarzyna Stolarz-Skrzypek, Alexandre Peruse and Jan A. Staessen

American Journal of Hypertension 2014;27:1138-1142


 (訳者注: この論文の前にGraudalらはナトリウム摂取量と死亡率の増加は関係ないことを発表した。それを受けて、本論文は書かれており、医学研究所の報告書にも触れ、エビデンスに基づいて危険性のあるアメリカの塩ガイドラインを改定する必要のあることを示唆している。本文中のナトリウム量を2.54倍すると塩量になる。mmolの場合には58.4倍すると塩mgの単位となる。)

最近まで塩論争は、非常に強硬で国際的なリーダーの選ばれたグループによって支配され続けた。彼等の目的はいわゆる有力なエビデンスを偏って解釈して自分たちの意見を強要することであった。潮流に逆らって本誌でGraudalと仲間たちは、疫学グループによる観察研究のメタアナリシスによって提案されているように、最高の実行可能な品質基準に従って文献の総合レビューを発表した。23件のコホート研究と2件のランダム化比較試験(n=274,683)の追跡研究からのデータは、全ての死因または心臓血管疾患の危険率は通常のナトリウム摂取量と比較すると低ナトリウム摂取量と高ナトリウム摂取量で高く、健康結果と塩摂取量との間のU字型関係と一致していることを示した。低ナトリウム摂取量対通常ナトリウム摂取量について全死亡と心臓血管疾患死亡とのハザード比はそれぞれ1.101.11であった。高ナトリウム摂取量対通常ナトリウム摂取量について対応するハザード比は1.161.12であった。

 

心臓血管疾患の最終結果と24時間尿中ナトリウム排泄量

 Graudalらの結果は2011年に発表されたヨーロッパ人における我々のコホート研究に沿っている。世界人口のほぼ90%は1日当たり115 – 215 mmolの範囲の平均的な通常ナトリウム摂取量である。この範囲はヨーロッパ人口の分布で1/3の低ナトリウム摂取量(107 mmol)1/3の高ナトリウム摂取量(260 mmol)24時間尿中ナトリウム排泄量の平均値とほぼ一致している。さらに、Graudalらは、多数の混乱因子について調整した集団を代表する試料で、全ての死因による死亡の危険率は通常ナトリウム摂取量と比較して低ナトリウム摂取量で高かったが、通常ナトリウム摂取量と比較して高ナトリウム摂取量では高くなく、それぞれのハザード比は1.160.96であった。中央値で7.9年間追跡した我々の3,681人の参加者の中で、全ての死因は尿中ナトリウム量と関係してなかったが、心臓血管疾患による死亡は24時間尿中ナトリウム排泄量の増加する3分割を横切って低下した。すなわち、低排泄量グループの死亡数50から、中間の排泄量グループ(平均値=168 mmol)の死亡数24まで、高排泄量グループの死亡数10までで、その結果、それぞれの死亡率は4,1%、1.9%、0.8%であった。多変量調整解析では、この逆相関関係は有意性を維持しており;低、中、高ナトリウム摂取量における心臓血管疾患による死亡の危険率を表すハザード比はそれぞれ1.561.050.96であった。6.1年間追跡された1,499人の参加者では収縮期血圧が年間0.37 mmHg増加し、一方、ナトリウム排泄量は変化しなかった。多数の混乱因子について調整した解析では、ナトリウム排泄量の100-mmol増加は収縮期血圧で1.7 mmHg増加したが、拡張期血圧には差がなかった。効果に近い収縮期血圧の推定値は正常血圧者によるナトリウム介入研究のメタアナリシスで24時間尿中ナトリウム排泄量で75 mmolの変化と関係していた。伝えるところでは2.0 mmHgから2.4 mmHgまでの範囲であった。

 我々が発表した論文の前でも、我々の研究が間違っていると言う警告を無記名の論説で発表する必要性をランセットは気付いた。論説はアメリカ疾病予防管理センターの医学部長であるPeter Brissを引用した。彼は我々の研究をイベント率が低く、比較的若い参加者による小さな研究として評価した。ハーバード公衆保健校の栄養部長であるWalter Willettも別の弱点を指摘した。つまり、ナトリウム摂取量の測定に信頼性がない、ナトリウム摂取量と心疾患に影響を及ぼすキー・ファクターの採用に失敗、多くの参加者からの尿データを失ったか、不完全である。我々はこれらの批判に、アメリカ医学協会誌のコレスポンデンス・セクションで答えた。他でレビューされた物やGraudalらのメタアナリシスと一致しているように、その後いくつかの研究は死亡率または心臓血管疾患と24時間尿中ナトリウム排泄量との間に逆相関またはJ字型関係を述べた。それにもかかわらず、我々や他の研究者達は激しい非難に曝され続けた。他方、我々はこの分野で何人かの専門家達からの支持する手紙を受け取った。

 

“説得力のある”エビデンスのレビュー

 我々の研究ががっかりするほど弱く、塩と疾患について理解するにはほとんど役立たないとランセットは言い続けた。それは高血圧、心疾患、脳卒中についての危険因子として塩の重要性の社会認識を混乱させるようであった。ナトリウム摂取量や心臓血管疾患イベントのような介入と結果に関する疑問は小規模な観察研究では答えられない。したがって、我々は、現在の通常摂取量である1日当たり115 – 215 mmol以下に集団で劇的に減塩することを支持するいわゆる説得力のあるエビデンスのある論文を読むことが有益であると考えた。インターソルトでは、センター内の解析は収縮期血圧と24時間尿中ナトリウム排泄量との間で矛盾した関係を示した。両方とも有意でポジティブな関係と逆相関関係であった。センター間の解析は52センター間でナトリウム100 mmol当たり7.1 mmHgの効果的な大きさを示し、それは極端に低い尿中ナトリウム排泄量の原始的な4社会を除くと、100 mmol当たり2.8 mmHgに弱まった。特に、24時間尿試料を集める方法はインターソルトと我々の集団研究で同じであり、24時間尿中ナトリウム排泄量の平均値は我々の研究、ベルギー、ポーランド、ロシアのインターソルト・センターで類似していた。その上、センター間のインターソルト解析は偽の関係を示すことで攻撃されやすい集合レベルの生態学的なメタアナリシスである。我々の集団よりも少ない試料数(n=2,436)のフィンランド集団研究は説得力のあるエビデンスの一部である。彼らの論文の要約で、著者らは次のように結論を出した:“高ナトリウム摂取量は、血圧を含む他の心臓血管疾患危険因子とは関係なく、冠状心疾患の死亡率や危険率を予言した。これらの結果は成人集団で高塩摂取量の有害効果の直接的なエビデンスを提供した。”しかし、1,263人の女子では、冠状心疾患または脳卒中と24時間尿中ナトリウム排泄量とを関係付ける十分に調整されたハザード比はいずれも有意に達しなかった。1,173人の男子では、ハザード比は致命的な結果や冠状心疾患については有意であったが、脳卒中については有意でなく、高血圧の合併症はほとんど緊密に血圧と関係していた。その上、サブグループの解析は、死亡率と24時間尿中ナトリウム排泄量との関係は514人の肥満男子だけに有意に達したことを示し、一方、女子については体格指数について層別化された解析は報告されなかった。

 Yangと同僚は死亡率ファイルと関連付けた第三回国民健康・栄養調査(19882006)に含まれる12,267人の成人を解析した。高いNa/K比は心臓血管疾患による死亡と全ての死因による死亡の危険率の有意な増加と関係していたことを述べて要旨は終わった。しかし、多変数を調整した解析では、心臓血管疾患による死亡(n=825)の危険率と虚血性心疾患による死亡(n=443)は通常のナトリウム摂取量とは有意に関係していなかったが、カリウム摂取量とは逆相関していた。Na/K比とのポジティブな相関を説明している。調整を加えると、全ての死因による死亡(n=2,270)は通常のナトリウム摂取量とポジティブに関係していたが、カリウム摂取量とは逆相関していた。心臓血管疾患や血圧ではなく、心臓血管疾患によらない死亡に代わるものが総死亡数と通常のナトリウム摂取量との間の関係を推し進めてきたことが示唆される。

 老人の非薬物介入試験(TONE)の研究者達も説得力のあるエビデンスに貢献した。TONEの結果は公衆保健専門家と臨床従業者について両方に重要な関係を持っている、と彼等は狂信的に結論を下した。高血圧の老人患者は生活様式を変化させ継続でき、これらの印象的な結果は中程度の減塩に関連して得られたことを彼等は提案した。しかし、8,787人の患者は11.1%と言う高度に選択されたグループにランダム化するために篩い分けされなければならなかった。減塩に割り当てられた参加者の24時間尿中ナトリウム排泄量の低下は平均して約40 mmol/d(920 mg/d)であり、その結果、収縮期血圧で平均3.5 mmHg、拡張期血圧で1.9 mmHgの低下であった。さらに、減塩は主要な終点の危険率を31%低減させたが、主要な終点は、降圧剤服用の中止後の高血圧、降圧剤服用治療の再開、血圧低下治療を止められないような弱い結果から主に成り立っている。狭心症、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈移植のような心臓血管疾患合併症の発症と言ったことで何が本当に重要であるかについて有意なグループ間差はなかった。しかし、健康に悪い結果を引き起こす同様の低い傾向は、減塩または通常摂取量にランダムに割り当てられた参加者からなる高血圧予防試験(TOPH)ⅠとⅡの追跡でも観察された。

 心臓血管疾患をナトリウム摂取量に関連付けた研究のメタアナリシスで、Strazzulloと同僚達は要約で次のように結論を下した:“高い塩摂取量は脳卒中や全体的な心臓血管疾患の危険率増加と有意に関係している。”脳卒中の危険率は、1日当たり50 mmolのナトリウム摂取量増加で6%増加した。心臓血管疾患について同じ様な傾向は有意でなかった。Strazzulloのメタアナリシスに含まれているどの報告書でも、ナトリウム摂取量を調べる方法は標準化されていなかった。致命的な結果だけをもたらす研究は、致命的なイベントとそうでないイベントの両方を含む研究でプールされた。その上、分散加重メタ回帰分析で使われたハザード比は同じナトリウム摂取量に対して標準化されていなかった。Graudalらの研究と比較して、Strazzulloと同僚達は、ナトリウム摂取量の全範囲にわたって直線関係を仮定して、最高の範疇と最低の範疇を比較した。

 TOHP ⅠとⅡの長期間の追跡観察研究でも説得力のあるエビデンスを得た。ほとんどの最近の報告で、2,275人の前高血圧者の中でTOHP参加者は5回の24時間尿収集の中央値によって特性づけると、193人の心臓血管イベントがあった。最初のイベントでは68人の心筋梗塞、77人の冠動脈移植、22人の脳卒中、27人の心臓血管疾患死亡があった。病院、治療割当、人口変動、ベースライン変数、体重変化、喫煙、運動などを考慮して十分に調整したモデルでは、高ナトリウム摂取量に伴う危険率増加の有意な傾向はなかった。3,600 mg/dから4,800 mg/dまでの範囲のナトリウム排泄量の人々を比較すると、<2,300 mg/dのナトリウム排泄量の人々の危険率は32%低かった。ナトリウムを連続期間として考えると、ナトリウム1,000 mg/d当たりの増加で危険率は17%増加したが、分類別の解析に関する限りでは、p値は正式な有意性には達しなかった。したがって、TOHP報告書の説得力のあるエビデンスは有意性なし、または境界領域のp値に基づいていた。

 

医学研究所の調査

 中程度の減塩は実質的に心臓血管イベントや医療費を低下させると言う確信に統計モデルは導いた。正常血圧者のボランティア、高血圧患者、あるいはチンパンジーまでも含めた短期間介入研究は塩に対して全集団の長期間被ばくにまで合理的に外挿できない。最近の医学研究所(IOM)の報告書「集団のナトリウム摂取量:エビデンスの調査」はアメリカの疾病予防管理センター、ニューヨーク市保健精神衛生部、アメリカ心臓協会によって進められてきた現在のガイドラインを支持する確固としたエビデンスを見つけることは出来なかった。それらの機関は、集団全体のナトリウム摂取量を現在の3,400 mg/dから2,300 mg/d以下に下げ、心臓血管疾患危険率が増加しているアメリカ人の半分については1,500 mg/d以下にまで下げようとしてきた。IOMは観察研究と実験研究で得られた結果の多様性、血圧のベースライン値やナトリウム摂取量が減塩に対する血圧応答の主要な決定因子であることを認識していた。さらに、IOM1,500 mg/d以下のナトリウム摂取量に対して警告していた。アメリカ人の成人の中で、わずかに9%だけが現在、2,300 mg/d以下を摂取しており、ちょうど0.6%が1,500 mg/d以下のナトリウム摂取量であり、可能であれば人類の歴史の中でかつて計画されたもっとも積極的な生活様式の介入である塩の禁止を提案している。重症の心臓血管疾患に関して利益を提供している大規模なランダム化された臨床試験によって実証されないでも、一般市民による可能性や容認に疑問を持つことなく2020年までにこれらの低い塩摂取量の目標値は達成されるべきである。それによって一度24時間尿中ナトリウム排泄量が<100 mmol/d以下に低下すると、血清脂質の逆変化またはインスリン抵抗性の増加によってレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系や交感神経系の指数関数的な活性化によって引き起こされる可能性のある害をガイドラインは完全に無視している。100 mmol/d以下のナトリウム摂取量でナトリウム保持機構の活性化とベースライン値に対する血圧応答の強い依存性はガイドラインによって仮定されるような直線的な投与量応答曲線またはありそうにない外挿線を作り出す。事実、GraudalらのメタアナリシスはU字型関係を示した。メタアナリシスはNHANES ⅠとⅢのデータを含んでいた。Graudalらが使用したNHANESデータを他の研究者達が発表したごく最近の解析と置き換えると、低ナトリウム対通常ナトリウムについて総死亡の相対危険率が得られた。しかし、解析に使われた参加者数と死亡数はNHANESⅠの反復解析と比較した最初の解析で高かった。一方、反対の結果はNHANESⅢの反復解析と最初に比較した場合であった。Graudalらのメタアナリシスは20141月にオンラインで発表され、3か月後に印刷されたTOHPのコホ-ト観察解析を含まなかった。

 半定量的なレビューを含む塩論争の反対側の専門家達によって書かれたいくつかの論文は心臓血管疾患と塩摂取量との関係に関する観察的な報告書を解釈することの挑戦を強調した。しかし、今まで異なった塩摂取量に関係した長期間の心臓血管疾患の保健結果を調べるために強化されたランダム化された臨床試験がないため、潜在的な落とし穴があるにもかかわらず、観察研究が主要な情報源となっているままである。塩ガイドラインを書いた専門委員達は、特に脳卒中と塩摂取量との関係を示す主に観察研究や生態学的研究と正常血圧者および高血圧者のボランティアによる介入研究について、全ての関連した研究は考察され、適正に評価されるべきである、と主張している。

 

結論

 Graudalらのメタアナリシスはこれまでの研究からのエビデンスを確定させ、最も好ましい健康結果と関係しているナトリウム摂取量(2,645 – 4,945 mg/d)の特別な範囲(その範囲内ではナトリウム摂取量の変動は死亡率の変動とは関係してない。) を明らかにすることによってIOM報告書に反映させている。その上、この摂取量の最適範囲は、現在利用できるエビデンスに基づくと、世界の人口のほとんどが摂取している量に相当しており、十分なナトリウム摂取量の定義についてのIOMルールやナトリウムの上限許容量と一致している。科学は進歩するために時々医学の教科書や定説はコペルニクス的改革を必要とする。多分、医療体系の塩を中心とした視点を再考するために、塩に関する世界中の行動を主張する時が来る。代償性心不全や非代償性心不全の管理における同様のパラダイム・シフトは現在進展中である。