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たばこ塩産業 塩事業版 2002.02.25

Encyclopedia[塩百科] 7

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

第11回国際冬期道路会議

冬期道路管理に関する問題の発表・議論から

雪国における冬期道路管理は交通安全、物流確保の面から重要な問題である。この度、札幌で第11国際冬期道路会議が1月28日から31日まで開催された。会場は昨年完成したサッカーのワールドカップ会場となる札幌ドームであった。世界の62カ国から550人、国内から1,700人の参加者で冬期道路管理に関する問題が発表・議論された。この会議に参加する機会を得たので、いくつかの話題を紹介する。

「話題T」の発表は1件

 発表された話題は、表1に示すようにポスターセッションの発表を含めて169件あった。4会場で各話題の発表が同時進行し、26カ国から日本語、英語、フランス語で発表され、3カ国語に同時通訳された。15分間の発表、5分間の質疑応答で活発な会議であった。

表1 国際冬期道路会議の話題と発表件数
話題 内     容 口頭発表 ポスター発表 日本からの発表
T 冬期道路管理政策及び戦略 15 3 1
U 雪氷マネジメントとコスト 26 5 14
V 都市部における冬期道路問題と交通安全 12 7 10
W 環境とエネルギー 19 6 14
X 情報通信技術 26 6 19
Y 雪氷技術対策の開発 26 18 23

  表1の発表件数を見ると、各話題について開催国である日本からの発表が大体半数を占めている中で、話題Tだけがわずかに1件だけの発表であり、基本的な冬期道路管理政策や戦略に関心がなくおろそかになっている姿を見ると、何やら日本の政治を反映している印象を受けた。

冬期道路事業の戦略は?!

 他の話題の発表時間と重なっていたため、この話題の発表は一件も聞くことが出来なかった。講演要旨によると唯一日本からの発表は、日本全国を対象としたアンケートにより雪国以外の地域に住む人々が雪害対策や道路除雪等の雪寒道路事業の必要性をどの程度理解し、事業効果がそれらの人々に与えている影響を評価した内容である。戦略的政策を立案する一助とするつもりであろうか?

融氷対策費は年間250億円

 Uは合理的に冬期道路管理を行うためのシステム、意志決定、除雪作業機器の管理、凍結防止剤散布量の少量化、凍結防止剤の在庫管理等の話題が中心であった。
 日本道路公団が発表した「日本の高速道路における冬期道路管理システム」によると、11,520 kmの高速道路網建設の計画がある中で6,850 kmが既に使われている。1000台の除雪機と500台の凍結防止剤散布機を保有し、年間1520万トンの凍結防止剤を使用している。融氷対策費は年間250億円に達している。図1にこれまでの状況を示した。

       高速道路延長と融氷雪作業費

 「北海道開発局の冬期道路管理水準について」の発表によると、1992年に粉塵公害を起こしたスタッドタイヤが禁止されてから図2に示すように融氷雪剤(塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウムの混合
)と滑止剤(砂礫)の使用量が増加してきた(2000年の国道距離は6,243 km)。海外では滑止剤の後始末が問題となって、塩の優位性が認識されているいるのに、日本では塩の使用量より多いことを知り意外に思った。

          北海道開発局で使われる融氷雪剤と滑り止め剤の量

都市部での雪害対策事例

 首都高速道路公団が発表した「首都高速道路における雪害対策管理とその事例」によると、首都高速道路は総延長264 kmで、一日116万台の車両、約200万人に利用されている。その距離は東京主要道路延長の13%に過ぎないが、交通量(走行台キロ)で約28%、貨物輸送量では約38%を分担している。降雪の頻度は少ない、しかし、降雪があると影響は大きい、除雪機の稼働率が低い、道路の80%が高架である、路肩が狭い、路面が凍結し易いなど首都高速道路の特殊性から除雪対策を考える必要がある。融氷雪剤としては路面温度が-5℃になったとき、塩化カルシウムを30 g/m2散布する。温度がもっと低くなると40 g/m2とする。急勾配道路、インターチェンジ、休憩所入口出口では温水散布、電熱舗装などの除雪対策を講じている。この温度水準では塩より高価で発錆性も塩と大差のない塩化カルシウムを用いる必要はないと思われるが、展示ブースの係員による話では使用理由が明確でなかった。
 幹線道路(道路幅10 m以上)2,241 km、生活道路(10 m未満)2,930 kmを持つ札幌市が発表した「冬期道路空間確保のための札幌市による戦略」によると、年間降雪量は約5 mあり、生活道路の除雪は市と住民が共同で除雪作業に取組む「除雪共同作業」制度により実施している。融氷雪剤を散布することはなく、除雪車による作業である。下水道管での除雪や歩道の加熱融氷雪設備設置への融資制度がある。札幌市では交差点近くの歩道、傾斜のある歩道のそこここに滑止剤が撒かれており、要所要所に5 kg入り位の袋が置いてあった。
 以前ヨーロッパに出張した時に聞いた話しであるが、ベルギーのブリュッセルでは、各家庭が融氷雪塩(10 kg)を用意しておき、雪が降ると、自分の屋敷が面している道路に塩を撒く。融雪しないために歩行者が滑って怪我をすると、家の主は道路管理が悪いと訴訟を起こされるそうだ。岩塩が豊富にあるヨーロッパでは岩塩散布により冬期の生活防衛をする智恵が発達したものと思われるが、塩資源のない日本では、米塩と言われる価値を持つ貴重な塩を道路に撒いて雪を溶かすという発想は生まれない。しかし、これからは環境に注意しながらの塩散布も考えるべきであると、札幌の街を歩いてみて思った。

環境影響とエネルギー利用

 仙台市が発表した「凍結防止剤が沿道環境に与える影響の基礎的調査」によると、18年間にわたって凍結防止剤の散布が沿道環境に与える影響をモニターし、データ収集を行った結果、風や通過車両の巻き上げ等に伴う凍結防止剤の飛沫は車道から概ね3 m以内に集中して着地することがわかった。影響は低木類に顕著で、高木類では小さい。カルシウムは溶脱し、土壌残留は少なく、ナトリウムや塩化物はあまり溶脱せず、地表部付近に多く残留する。
 環境への影響とエネルギーの有効利用を考慮して、地下水の熱源利用、湖水熱利用、風力発電による道路加熱、太陽熱利用蓄熱温水道路循環などの発表があった。

新たな雪氷対策技術の開発

 新しい融氷雪剤の開発、凍結防止剤散布機や除雪機械の開発、凍結抑制舗装法、排水性舗装、防錆剤開発等の発表があった。
 国土交通省が発表した「凍結防止剤を用いた雪氷路面対策」では、図3に示すようにいろいろな融氷雪剤の融氷雪効果が発表された。-5℃、5gを散布したときに溶けた氷の量を測定した結果である。速効性は塩化カルシウムの方があるが、融氷量は塩の方が大きいことが分かる。

        各種融氷雪剤による溶解氷量

 福田道路建設株式会社が発表した「日本における凍結抑制舗装の現状と評価手法」によると、氷雪防止舗装には融氷雪剤混合舗装と物理的氷雪防止舗装がある。前者は混合されている融氷雪剤の融氷効果によるものであり、後者は弾力性のある舗装面が車両の通行により凹み、氷雪が路面から剥離して割れ、排除される。
 株式会社トクヤマが発表した「新規塩化物系凍結防止剤の開発について」によると、塩化ナトリウムに米糠を5重量%添加した融氷雪剤の腐食量は53日後で塩化ナトリウムだけの腐食量に比べてほぼ半減した。米糠の防食作用はフィチン酸によるものと考えている。

塩に代わる融氷雪剤なし

 以上、国際冬期道路会議に出席して得た情報のいくつかを紹介した。気候、文化、埋蔵資源の相違によって冬期道路管理に対する政策が違っていることがよく分かった。今のところ塩の代わる安価で効果のある融氷雪剤はない。しかし、腐食性、コンクリート破壊、植物に対する塩害、地下水汚染などの問題がある。環境汚染問題と融氷雪による交通安全、物流確保、経済効果とのバランスを考えながら交通確保の道路管理が行われるが、欧米の使用量、環境調査から考えて日本では融氷雪用塩の使用量がますます増加していくものと思われる。