たばこ塩産業 塩事業版  2007.07.25

塩・話・解・題 28 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

 

にがり製造に食品衛生管理者が必要か?

「にがり」問題を考える

 

 本紙の先月号で報じられたように、粗製海水塩化マグネシウム(にがり)の規格が定められたことに伴って、製造者には食品衛生管理者の設置が義務付けられた。これは食品衛生法に基づく。巷で大問題となった雪印、不二家、最近のミートホープ社の場合では設置は当然のことであるが、にがり製造の場合には疑問に思う。この問題について考えてみる。

食品添加物に関する食品衛生法の条項

 食品衛生法の目的は第一条で、「食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ること」と謳われている。以下条文で、食品添加物に関わる部分を抜粋する。
  衛生法の目的を達成するために、第五条「食品又は添加物の製造は、清潔で衛生的に行わなければならない」。第六条「次に掲げる食品又は添加物は、製造してはならない」の中でその第一項「腐敗し、若しくは変敗したもの」、第三項「病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの」と規定されている。これらの条項を粗製海水塩化マグネシウム(にがり)に当てはめてみると、いずれも該当しない。
  第十条では「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては、添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるものを除く。)は、製造してはならない」と審議会の意見を聞いて定められた添加物についての例外規定が設けられており、にがりは例外の中には入っていない。しかし、多くのにがり成分となっている化合物は、後で述べるように例外規定の中に含まれている。
  第十一条の「厚生労働大臣は、(中略)食品若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる」により、この度にがりの規格が定められた。この第二項で「規格に合わない食品若しくは添加物を製造してはならない」となっている。

食品衛生管理者に関する条項

第四十八条で、「乳製品、第十条の規定により厚生労働大臣が定めた添加物その他製造又は加工の過程において特に衛生上の考慮を必要とする食品又は添加物であって政令で定めるものの製造又は加工を行う営業者は、その製造又は加工を衛生的に管理させるため、その施設ごとに、専任の食品衛生管理者を置かなければならない」と謳われている。
  ここで、政令で定める食品又は添加物については、食品衛生法施行令の第十三条で「法第481項に規定する政令で定める食品及び添加物は、全粉乳(その容量が1400グラム以下である缶に収められるものに限る)加糖粉乳、調製粉乳、食肉製品、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、放射線照射食品、食用油脂
(脱色又は脱臭の過程を経て製造されるものに限る。)、マーガリン、ショートニング及び添加物(法第111項の規定により規格が定められたものに限る。)とする」となっており、主として前述した食品衛生法第六条第一項、第三項に関わる食品が対象であるが、最後の添加物の(  )書きで規格が定められたものに限る、との条項が効いて、腐敗、変敗、微生物汚染を起こすことのないにがりの製造についても、この度、規格が定められたので、食品衛生管理者を設置しなければならなくなった。

粗製海水塩化マグネシウム(にがり)の規格

  にがりの定義は「本品は、海水から塩化カリウム及び塩化ナトリウムを析出分離して得られた、塩化マグネシウムを主成分とするものである」で、含量として「本品は、塩化マグネシウム(MgCl2=95.21)として12.030.0%を含む」となっており、「本品は、無〜淡黄色の液体で、苦味がある」と性状が述べられている。
 純度としては次のように定められている。SO4として4.8%以下、Brとして2.5%以下、Pb(重金属)として20μg/g以下、Znとして70μg/g以下、Caとして4.0%以下、Naとして4.0%以下、Kとして6.0%以下、As2O3(有害物のヒ素)として4.0μg/g以下である。この規格値については次回で妥当性を考察する。
 にがりは海水を蒸発濃縮またはイオン交換膜電気透析法で濃縮して得られたかん水を煮詰めて塩を採取した後に残った液であるので、塩化マグネシウムを主成分とするその他の化合物との混合物である。その他の化合物として主たる物は、硫酸マグネシウム(海水を蒸発濃縮した場合)、塩化カルシウム(海水をイオン交換膜で濃縮した場合)、塩化ナトリウム、塩化カリウムである。

添加物製造の禁止例外規定

 前に述べた食品衛生法第十条の「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては、」という添加物製造禁止の例外品として、食品衛生法施行規則の第十二条では「法第10の規定により人の健康を損なうおそれのない添加物を別表第1のとおりとする」と定められている。
 別表第1には、人の健康を損なうおそれのない場合の添加物として366種類があり、その中で塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムが指定されている。これらは指定添加物である。つまりこれらの添加物を製造する時には食品衛生管理者の設置は必要ないのである。この他に、にがりを含む450種類の既存添加物がある。

にがりは「指定添加物」として組み替えるべき

 にがりは前述した指定添加物の化合物に塩化ナトリウムが加わった物である。4種類の指定添加物の製造では食品衛生管理者は必要ないのに、それらの混合物に塩化ナトリウムが加わった既存添加物のにがりでは必要となってくる。何故なのであろうか?これはにがりの規格が定められたことにより、食品衛生法第四十八条と食品衛生法施行令の第十三条に基づいて自動的に食品衛生管理者が必要となったからである。何だか変だと筆者は思う。科学的根拠がないからである。国際的に考えても通用する話ではない。
 速やかに厚生労働大臣は薬事・食品衛生審議会の意見を聴取して、人の健康を損なうおそれのない場合の添加物(指定添加物)として粗製海水塩化マグネシウム(にがり)を既存添加物から組み替えるべきである。

戻る