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たばこ塩産業 塩事業版  2014.8.25

塩・話・解・題 113 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫


スポーツ時の熱中症・低ナトリウム血症予防心得


体質に合った対策の準備を


 


 今年も熱中症で多くの人々が救急搬送されるニュースが流されている。高齢者が多いが、若い人でもスポーツの練習や試合中に熱中症に襲われている。今月は「過激な耐久レースの競技者には塩が必要」と言う記事と「汗の中の塩」と言う論文から競技者の熱中症・低ナトリウム血症の予防心得を紹介しよう。


腎臓が塩濃度を維持


 血液中のナトリウム濃度(塩分)は通常、腎臓の働きにより140±5 mEq/(3220±115 mg/ℓ=塩に換算すると8.18±0.3 g/)に維持されている。この濃度が135 mEq/(塩で7.89 g/)以下になると低ナトリウム血症という病態になる。逆に145 mEq/(塩で8.47 g/)以上になると高ナトリウム血症という病態になる。


 低ナトリウム血症の症状は脳機能の障害として嗜眠(しみん)(眠ったような状態の意識障害)や錯乱、頭痛が生じる。ひどくなると痙攣、昏睡、死に至る。高ナトリウム血症の症状はまず口渇が起こる。口が渇いて水が欲しくなる。ひどくなると脳機能の障害が起こり錯乱、痙攣、昏睡、死に至る。


 このように血液中のナトリウム濃度は非常に重要である。濃度は過度の発汗や下痢によって大きく変わる可能性がある。発汗量は運動、体温上昇(発熱)、気温、湿度などによって変わる。


発汗時に塩も体外へ


 熱中症は体温の上昇で起こる。上昇した体温を下げる手段としては、氷枕、水枕、濡れタオルなどで強制的に冷やすとか、涼しい環境(木陰や冷房された部屋)で休むことだ。体温は汗の蒸発で自然に下がるが、汗が出ない(脱水)状態とか汗が蒸発しにくい(高湿度)状態では体温は下がらないで熱中症になる。筆者自身も夏の夜、寝ている間になったことがある。


 汗の蒸発で体温が下がり熱中症は避けられるが、水分と一緒にナトリウムも汗の中に出てしまう。この時、水だけを飲んでいると次第に血液中のナトリウム濃度が低くなって低ナトリウム血症になってしまう。その昔、運動中に汗をかいても水を飲まないように指導された時代があったが、経験的に低ナトリウム血症の予防であったのかも知れない。今では水を飲むように指導されるが、水だけではなくナトリウム()も摂らなければならない。


計画的な塩分補給を


 記事「過激な耐久レースの競技者には塩が必要」から紹介しよう。暑くて湿度の高い条件で行われる長距離レースでは低ナトリウム血症を発症させ易い。ある種の競技者は運動量の増加による過剰な発汗で、練習や競技中に血液中の塩が少なくなりすぎて危険に陥り、特別な塩補給をしなければならない。運動前・中・後に十分な塩を摂取することは、激しい運動をする人々にとっては一層重要である。超耐久レース中に競技者は汗1リットル当たり12 gの塩を失う。1時間毎に1リットル(以上)の汗をかくことを考えると、長い耐久競技(12時間レース)の間に競技者が大量の塩を汗で出し、この塩損失を水と一緒に補給しないと危険になる。


初期の低ナトリウム血症で見られる警告兆候は微妙で、脱水症に似ている。吐き気、筋肉痙攣、失見当、発音不良、錯乱、不穏当な行動を示す。この時点で、多くの競技者は脱水症になっていると考え、水を飲んでトラブルに陥る。最も極端な場合には、競技者は発作、昏睡を起こし、死に至ることもある。


 最初に起こる吐き気、筋肉痙攣、失見当の段階で、塩を含むスポーツ・ドリンクを飲むか、塩辛い食品を食べる。競技者(個体差がある)は競技中の水分損失と塩の必要補給量を推定し、予め競技中の水分補給計画を立てておき、低ナトリウム血症を予防する。


1割強が「おお汗かき」


 論文「汗の中の塩」から紹介しよう。― 競技者全員に熱中症について教育し、熱中症にならないよう水や電解質を与えることが我々の仕事で重要な部分である。しかし、最近の研究で“おお汗かき”と呼ばれる競技者には特別な注意をする必要があることが分かった。熱中症になった時、彼等は他の競技者よりもずっと熱関連の病気に苦しめられる。


おお汗かきと他の競技者との最大の差は、発汗で失う塩の量である。例えば、10人のフットボール選手の研究で、2時間運動中の塩損失は2.03 gから21.59 gの範囲であった。他の研究では暑くて湿度の高い日の試合中にトップランクのテニス選手は平均1時間当たり6.86 gのナトリウムを損失したが、一人の選手は1時間に30.48 gも失った。


 競技者がおお汗かきであるかどうかを見分ける最も科学的なテストは、汗を集める吸収パッチを使い、電解質損失を正確に分析することである。これは研究者達が使う方法である。しかし、現場では実用的ではない。もっと簡単な方法がある。


 おお汗かきは筋肉痙攣を起こしやすいように思われるので、痙攣病歴のある競技者を明らかにするアンケートを行った。また自分が塩損失を起こしやすいことを気付いているかどうかも尋ねた。外観調査も有用である。運動中に競技者の肌に付いた塩を我々は注意深くチェックした。最後に、練習や試合中に筋肉痙攣を経験した競技者を記録し、どれくらいの頻度で起こしているかも記録しておいた。一日2回の練習や激しい試合中に筋肉痙攣を起こす競技者はおお汗かきとして認定した。


 フロリダ州で我々の競技者の1015%がおお汗かきとして分類できると私は思っている。一般的に我々のフットボール名簿にある100人の中で1015人が筋肉痙攣の危険性があるおお汗かきとして認定されている。


2倍の塩を失う人も


 熱痙攣の病歴を持つ競技者グループと痙攣の病歴を持たないコントロール・グループとの間で水分と電解質損失の差を調べた。その結果、痙攣傾向のあるグループはないグループの2倍の塩を損失していた。すなわち、1回2時間半の練習中に痙攣競技者では平均12.95 g、痙攣を起こさない競技者では5.59 gの塩損失量であった。


 脱水はおお汗かきについては別の危険となる。彼等はおお汗をかかない者よりも多くの水分を損失する傾向も持っているらしいからである。同じ研究で、筋肉痙攣を起こす人々についての平均水分損失量は1時間当たり平均1.49リットルで、一方、痙攣を起こさない人々では1時間当たり平均0.99リットルであった。


 おお汗かきは熱射病や熱ばてのような他の暑さに関連した病気でも多分、危険率は高いはずである。水分や塩損失量の増加は体温を調節する能力を低下させ、あらゆる種類の熱関連問題を引き起こし易くする。


高塩分食摂取が有効


 おお汗かきを筋肉痙攣や熱中症から守るには、彼等が運動中に損失する大量の塩や水分を確実に補給することである。電解質補給はその一つだが、もっと自然で効果的な方法は食事を変えさせることだ。おお汗かきに健康に良い塩含有量の高い食品を多く食べるように奨励した。良い選択としてプレッツェル、ピーナッツ、ベークド・ポテト・チップス、スープ、缶詰野菜、脂身のないランチョンミートがある。多くの高塩食の競技者は通常のポテト・チップス、ファースト・フード、冷凍食品のような高度に加工された食品による食事をしがちである。これらは新鮮な食品や自然食品と比較して栄養素が少ない。したがって、競技者には塩辛い食品が最高であると言う特別なアドバイスを必ずすべきである。


 塩摂取量を増加させる別の方法は競技者に健康に良い自然食品に塩を振り掛けるようにもっと頻繁に塩振出器を使わせることである。食品に塩一さじを加えることは約5.08gの塩を提供することになり、これは食事で塩摂取量を増加させる時のガイドラインとして使われる。


 競技者はカロリー必要量にも注意を向けるべきである。特に強化練習中に必要エネルギー量を満たすことは必須である。欠食や練習で消費するに十分な量を食べないことは痙攣に繋がる。既に危険率の高い痙攣病歴を持つ競技者では、十分に食べることは非常に重要である。


 おお汗かきは他の競技者よりも多くの水分を失うので、運動前後に体重を計量することは正確な必要量を決定するために重要である。おお汗かきは1.81 kgから2.72 kgの水を失うのに、あまり汗をかかない者はわずか0.91から1.81 kgしか失わない。失われた水分の150%くらい多く補給して、取り戻すべき推奨量では少し大目にすることも重要である。


 しかし、いくつかの事例では食事変更だけでは不十分かもしれない。特にフットボールのような極端な条件では、何人かの選手は1回の練習中に汗で平均12.7 gの塩を損失するだろう。それはサプリメントで補給される。1日2回の練習で、または練習時間が1日に4 6時間を超える時には、おお汗かきは、練習後すぐに多量の水分と一緒に7.62 gから12.7 gの塩を摂るべきである。最初に、塩が3.81 gから7.62 gと少な目に補給すべきである。筋肉痙攣で苦しみ続ければ、補給量を増やす。希な事例では1時間当たり25.4 g以上の塩を失うことがある。


 ともかく、試合中の水と電解質の補給はおお汗かきにとって非常に重要である。試合中の炭水化物、水、電解質補給はおお汗かきにとって必須であり、これに十分な注意を払うことが筋肉痙攣の危険性を減らせる。


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 以上、熱中症と低ナトリウム血症に陥る傾向と予防対策を紹介した。大きな個体差があるので、普段から自分の体質をよく理解して予防に臨むことが重要であるようだ。一番暑い7月下旬から8月上旬に計画している東京オリンピックで、熱中症や低ナトリウム血症による事故が起こらないように万全の対策を講じてもらいたい。