たばこ産業 塩専売版  1991.08.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

命の糧「塩」− 体内のナトリウム分布

 人間は塩がなくては生きてはいけない。人問の体は細胞で構成されているが、その細胞は塩水の中に浮かんでいるともいえる。塩は水に溶けるとナトリウム・イオンと塩化物イオンに分かれる。塩は体内では水に溶けた形と、その構成成分が他の成分と結合した形で存在し、いろいろな役割を果たしている。塩の役割を話すとき、ナトリウム・イオンや塩化物イオンの役割を話すことになるのはこのためである。
 人間の体は大部分水分であることは分かるが、それほどのぐらいであろうか?身体を構成している水分と固形分の比は成人男子で32である。体重60キロの人であれば、その三十六キロは水分ということになる。この比は男女、肥満度、年齢によって変わり、図1はその一例である。男性より女性の方が水分は少なく、肥満者になるとさらに少なくなる。乳児は水分が非常に多い。

体液量の比較

              図1 体液量の比較

 この水分は体液とも呼ばれ、細胞内液と細胞外液である血漿と組織間液に分けられる。これらはそれぞれ体重の45%、5%、10(合計60)を占め、それぞれの液組成は図2に示すようになっている。この図から細胞内液には塩化物イオンがなく、ナトリウム・イオンは若干あることが分かる。このことから細胞内液には塩はないといえる。それとは逆に細胞外液には塩化物イオンとナトリウム・イオンが非常に多く、塩が沢山あることが分かる。単位が見慣れないmEq/lとなっているが、これは1リットル中の物質の量を示す濃度の単位で、このように表すと、結合する物質(例えばNa+Cl-が同じ量で示されて便利であるために使われる。図から血漿中のNa+142mEq/1であるが、これを食塩に換算すると8.2グラム/リットルすなわち0.8%の食塩水となる。よくいわれる血中の塩分濃度が0.8%というのはこのことに基づいている。しかし、Cl-103mEq/lであるので、これを食塩に換算すると6グラム/リットルすなわち0.6%の食塩水となり、Cl-は必ずしもすべてNa+と結合しているわけではないので、食塩の量としては6グラム/リットル以下であるNa+Cl-との差のNa+は他の成分であるHCO3-やタンパク質と結合する。

体液の種類とその組成
        図2 体液の種類とその組成

 細胞外液のひとつである消化液としては胃液、すい液、C胆汁、空腸液などがあるが、これら消化液の主成分はナトリウム・イオンや塩化物イオンである。胃液の主成分は塩酸でありり、C胆汁、空腸液の主成分は塩である。その他に細胞外液にはもう一つ脳脊髄液があるが、この主成分も塩である。

Naの分布と移動
             図3 Naの分布と移動

 以上のことから体内のナトリウム分布を示すと図3のようになり、その約半分が骨の成分と結合していることが分かる。その内の一部は交換可能なナトリウムで、細胞外液との間で出し入れがある。骨はナトリウムを預かる銀行の役割を果たしている。
(参考図書:図解水と電解質)