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塩が甘味を増す方法:味覚の無数のメカニズム

塩化物イオンは甘味受容体に結合し、味覚を呼び起こす

How Salt Can Taste Sweet: The Myriad Mechanisms of Taste Perception

https://www.sciencedaily.com/

Source: Okayama University   2023.03.23

 

人間は、甘味、うま味、苦味、塩味、酸味という5つの基本的な味覚を知覚する。特定の食品は味蕾の様々な受容体の活性化を通じて、これらの感覚の味覚認識を引き起こす。食卓塩の場合、濃度も味を決定する重要な要素である。例えば、食卓塩の好ましい濃度は500 mMであり、人間は塩味を知覚する。しかし、500 mMを超える高濃度の塩は苦味および/または酸味として知覚される可能性があるが、10 mM未満の非常に低濃度の塩は人間によって甘いと認識される。科学的研究は、味蕾に複数の塩検出経路が存在することを提案しているが、それらの正確なメカニズムは完全には理解されていない。

 

一般的な塩(NaCl)の場合、塩味覚は主にナトリウム・イオンNaによって駆動される。しかし、陰イオン(塩化物イオンCl)は、独特の分子機構によって検出され、味覚に関与するとも考えられている。この塩化物イオン検出メカニズムを調査するために、日本の岡山大学の科学者達は構造生物学の方法とマウス・モデルを使用して研究を実施した。この研究は2023228日にeLifeに掲載された。

 科学者達は以前に日本のメダカの味覚受容体の構造を分析した。これは、人間の味覚受容体に類似しており、構造分析にも適合している。この魚の味覚受容体の一部は塩化物イオンに結合する可能性がある。山下敦子教授は次のように説明している。「以前、メダカのT1r3LBD受容体の構造を解析したところ、T1r3LBDへのCl-結合という予想外の発見に至った。この研究では、Cl-結合が受容体の構造変化を誘発するかどうかを調べた。Cl-によるこの変化の誘導を確認することができた。」T1r受容体の立体構造の変化(または構造の変化)は、他の味覚物質によって誘発されるものと同様であることが分り、Cl-T1r2a/T1r3LBDの甘味受容体を活性化することが示唆された。形状の変化は受容体の活性化を示すことが多いため、この研究では、糖に反応する甘味受容体の塩化物イオンの活性化をさらに調査した。山下教授は次のような説明している。「より確立された動物モデルを使用して、この現象をさらに調査したいと考えた。T1r3Cl-結合部位は様々な種で保存されているため、マウスの味覚神経記録を使用してCl-の生理学的重要性を調査することにした。」

 この証拠を提供するために、彼等はマウスで電気生理学的分析を行い、少量の塩化物がマウスの舌に置かれたときに甘味のシグナル伝達に関与する神経の活性化を実証できた。したがって、彼等は低濃度のCl-が味蕾のT1rを介して「軽い」味覚感覚を生み出す可能性のあることを実証した。「Cl-誘発味はアミノ酸や糖などのT1rsの標準的な味覚物質によって誘発される味と似ているが、その有効性はわずかに低くなる。」と山下教授は言う。さらに、希塩化物溶液と普通の水のどちらかを選択すると、マウスは塩化物溶液の味を認識し、それを好むことを示した。甘味応答を誘発する塩化ナトリウムの濃度は微量であり、10 mM未満でさえあることが分かり、この甘味はグルマリンを含む甘味抑制剤の外用によって抑制できた。これらの発見は、マウスが特定の受容体と神経の作用を介して塩化物を甘い物として認識すると言う仮説を支持している。彼等はまた、希薄な食卓塩が塩化物イオンの存在により味覚刺激を提供することを示している。

 食卓塩はホメオスタシスまたは体内の平衡を維持する上で重要な要素である。この平衡はナトリウムの最適な摂取と排泄によって調節される。この研究は、前者のプロセスが関与する受容体の分子機構を調節するためにカウンター塩化物イオンを使用することを示している。この研究の結果は、生物の味覚のより微妙な理解への道を開くであろう。